こんにちは。今回は、実話を元にした韓国映画を2本ご紹介したいと思います。
「タクシー運転手:約束は海を越えて」は、1980年の広州事件をいち早く世界に報道したドイツ人記者とタクシー運転手の心温まる交流を題材にした映画です。
「君の誕生日」は、2014年のセウォル号の沈没事故で犠牲になった息子を思い続ける家族を題材にした映画です。
「タクシー運転手:約束は海を越えて」2017年
時代背景:
1979年に、朴 正煕大統領(元大統領の朴槿恵の父親)が暗殺され、軍事独裁政権が終焉し、韓国の民主化運動に取り組み、逮捕された金大中が公民権を回復し、民主化・自由化への期待が高まり「ソウルの春」と言われた時代です。
1980年5月、ソウル大学の「民主化大総会」に1万余人の学生が集まり、政府だけではなく、一般市民にも衝撃を与えました。
やがて、運動はソウルだけではなく、全国の大学に広がっていきました。
特に金大中の故郷に近い光州では、学生、市民らと軍が激しくぶつかり合い、多くの犠牲者が出る事態になっていました。
そんな中、金大中が再び逮捕されたことをきっかけに光州市民の反発はさらに激しくなり、民衆蜂起へと発展していきます。
一方、ソウルでは街頭デモを中止し、情勢を見守る決議を行っていたので、光州ほどの騒動にはなっていませんでした。
韓国のメディアも、市民たちが起こした「暴動」だと報じるに留め、本当の惨状を報道していませんでした。
鉄パイプや火炎瓶などで抵抗する学生、市民らに対して軍は、一斉射撃で応戦したため、射殺され命を落とす者が多数出ていました。
あらすじ:
主人公のマンソプは、ソウルのタクシー運転手で、幼い娘を男手一つで育てています。
娘のため、タクシー運転手として働くマンソプは、ある日、「通行禁止前に光州から戻れば10万もらえる」というおいしい話しを聞きつけます。
そのおいしい仕事を依頼したのが、 ピーターという東京在住特派員のドイツ人記者で、光州で起きている出来事を世界に伝えるため、光州入りを目指していました。
ピーターの目的がどういうことであるかも知らず、10万を手に入れたら、娘のところにさっさと帰ろうという魂胆だったマンソプは、やがて、光州の惨状を知ることになるのです。
感想:
光州事件は、日本ではあまり知られていませんが、韓国史上で最も多く語り継がれる事件の一つだそうです。
軍事政権から、民主化を勝ち取り、今の自由な韓国があるのは、多くの犠牲が伴っているということがわかります。
軍事政権が市民を弾圧する事件は、今も香港やミャンマーで起こっていることです。
映画の中で、娘のところに早く帰ってあげたいけど、実際に目にした光州の惨状を、自分には関係のないこととは思えず、泣きながら引き返すシーンが感動的でした。
いつもは縄張り意識が強いタクシー運転手たちだけど、困ったときはお互い様とばかりに体を張って仲間を助ける連携プレーもお見事です。
「君の誕生日」2020年
事故:
2014年4月16日仁川港から済州島へ向かっていた大型旅客船セウォル号が、転覆、沈没しました。
乗船客には、修学旅行中の高校生325人のほか、教員、一般客、乗務員の計476人がいましたが、乗員乗客あわせて299人が亡くなるという大惨事となりました。
事故の原因として、海運会社の安全管理の杜撰さ、船員の過失、救助の遅れ、政府の対応の遅さや誤りなどが重なり、多くの死者を出す結果となったと言われています。
あらすじ:
高校生の息子スホを事故で失ったスンナムは、2年経っても悲しみに暮れながら娘と暮らしています。
夫のジョンイルが長期の海外赴任から帰ってきますが、事故のときも家族といなかったジョンイルをスンナムはなかなか受け入れることができないでいます。
同じ事故で息子や娘を失ったけれど、明るく前向きに生きようとしている他の遺族にも背を向けてしまいます。
息子の死を受け入れることができないスンナムは、息子がいないのに、息子がいるように振る舞うことに抵抗を感じていて、遺族支援団体がスホの誕生日会を企画してくれますが、それも拒否してしまうのです。
感想:
遺族にとって大切な家族を失って、その死をどう受け止めるかは、それぞれだと思います。
事故を風化させないために、マスコミに取り上げてもらったり、支援団体を作ったりという活動をする遺族がいる一方で、そっとしておいてほしいという遺族も多くいます。
悲しんでも戻ってこない息子、だけどその死を受け入れることはできなくて、家族につらく当たってしまうことへの葛藤や悲しみをどこにぶつけていいのかわからない苦しみが痛いほど伝わってきます。
感情が鈍化して、いつもはほとんど無表情なのに、悲しみの表現はとても強いのですよね。
まとめ
2本の映画に共通していることは、真実を伝えることと語り継ぐことの大切さとその苦しみだと思います。
どういう形で人々の記憶にその事件を残していくのかが、実際の関係者の課題であると同時に、それを受け取る側の課題でもあるのです。
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