前回ご紹介した「ガブリエル事件」は、実際に起こったドキュメンタリー映画でした。
今回は、毒親をテーマにした映画をご紹介していきたいと思います。
葛城事件(2016年日本映画)
もともと機能していなかった家族が、次男が起こしたある出来事ですべてが崩壊してしまう「誰も救われない」機能不全の家族を描いた作品です。
親から引き継いだ金物店を営む父親は、「マイホームを建ててお前らを養ってやっている」的な威圧的な男です。
妻に対しても、「お前が甘やかすから子供の出来が悪いんだ」と、家族の不出来を全て妻のせいにしています。
妻は妻で、責められることに疲れてしまったのか、料理もせず、コンビニや宅配のピザで食事を済ませ、無気力になってしまっています。
唯一まともな長男は、ずっと「良い子」で大学を出て、就職もし家庭を持ちますが、機能していない家族で育ってきた膿とますますひどくなる他の家族たちの圧に押しつぶされ精神が崩壊していきます。
この家族を決定的に崩壊させることになる、次男は、学校にも行かず、仕事もせず、いわゆる「引きこもり」ですが、出来のいい兄と比べて自分に辛く当たる父親を恨んでいて、父親のことを「あの人」と呼び軽蔑しています。
映画の中では、次男と父親の確執が家族を機能不全にしているように描かれています。
最初に、この家族の中で壊れるのは、今まで一番まともだった長男なのですが、ここでも彼を取り巻く他の家族の「自分が一番大変なんだ」という勝手さが浮き彫りになります。
救いのない現実世界にたった一人残される父親は、最後まで「俺がいったい何をした」「俺だって被害者なんだよ」と自分の間違いを決して認めようとはしません。
犯罪を生む素地が家族にあると考えさせられる映画です。
結局、誰も救われないんだなとこの映画を見て、自分を納得させるしかないという感想でした。
幼い依頼人(2020年韓国映画)
韓国映画「幼い依頼人」は、2013年に発生した漆谷(チルゴク)継母児童虐待死亡事件を基にしています。
ひたすら出世だけを望んでいた弁護士が、7歳の実の弟を殺したと衝撃の告白をした10歳の少女に出会い、真実を明かすために奔走します。
弁護士を目指して法律事務所の面接を受けても落ちてばかりのジョンヨプは、姉の勧めで児童福祉施設で社会福祉士として働き始めます。
ある日、ダビンという少女が母親から暴力を振るわれたと警察に助けを求めます。
弟のミンジョンも継母から暴力を振るわれていました。
母親のぬくもりを知らないダビンとミンジョンは、継母からの虐待に耐え、ジョンヨプを頼って毎日のように施設に通ってくるのですが、ジョンヨプがソウルの法律事務所で働くことが決まり、姉弟には頼れる大人がいなくなってしまいます。
自分の存在が継母による姉弟への暴力の防波堤になっていたことに気づかず、自分の将来のためにソウルに行ってしまうジョンヨプですが、その後、姉弟の身に大変な出来事が起きてしまいます。
この頃になって、周りの大人たちもようやく事態の深刻さを知ることになりますが、ダビンたちが助けを求めたときに助けてもらえなかったことで、ダビンは心を閉ざします。
虐待により身体的にも精神的にも傷を負うのは、子供たちなのですが、その虐待をする親も、虐待の被害者なのです。
虐待は連鎖すると言われます、被害者だった自分がなぜ責められるのかわからない親もいるのです。
虐待の壮絶さに涙するまわりの人たちをよそに継母が最後に言い放つ一言はまさに、毒親そのものだとういう感想でした。
ヒルビリー・エレジー(2020年アメリカ映画)
J.D.ヴァンスによるニューヨーク・タイムズ紙ベストセラー第1位の回顧録「ヒルビリー・エレジー」を原作とした、実話に基づく物語です。
トランプ政権下のアメリカでトランプを支持した層が、この作品に描かれている白人の労働者階級でした。
そこから這い上がることがいかに困難か、そして、這い上がらなくては成功者にはなれない現実をつきつけた作品です。
ヴァンスは、イエール大学のロースクールに通いながら、3つのアルバイトを掛け持ちして勉強する日々を送っていました。
書記官か法律事務所で働きたいと思い、面接を兼ねたディナーに招待されていたとき、姉のリンジーから、母親が薬物の過剰摂取で病院に運ばれたと連絡が入ります。
チャンスを目の前にして、ヴァンスは悩みながらも、故郷の母親の元に帰ることにします。
ここから、ヴァンスの生い立ちが紹介されます。
ヴァンスは、オハイオ州の鉄鋼業の町で育ちました。
そこは、「ラストベルト(さびついた工業地帯)」と呼ばれる一帯にあり、貧困や離婚、家庭内暴力、薬物依存症が日常的な場所で、大学を卒業せずに労働者階級として働く白人アメリカ人の社会です。
彼らは「ヒルビリー(田舎者)」「レッドネック(首すじが赤く日焼けした白人労働者)」「ホワイト・トラッシュ(白いゴミ)」と呼ばれています。
両親はヴァンスが幼いときに離婚し、ドラッグ依存症の母親が次々と父親がわりの男たちを連れてくるような家庭でした。
母親は、優秀でしたが、大学に行けなかったことに大きなコンプレックスと悔しさを抱えていました。
優秀だったのに大学に行けなかったがために、一生、故郷を離れることができないというしがらみが母親の人生を狂わせてしまったかのようでした。
母親としての優しさを見せることもありましたが、すぐにカッとなる気性の激しい女性でした。
そんな危うい母親との生活を支えてくれたのが、祖父母でした。
特に祖母(グレン・クローズが熱演)は、ヴァンスに家族の大切さを教えるとともに、自分で自分の道を決め、そのためにチャンスをつかみなさいと教えました。
また、「母親のようにはなるな」と。
ヴァンスは、チャンスをつかむため、今まで以上に努力をするようになりました。
そして、今、
家族の中で一番、大きな夢に近づいている。
チャンスを逃すわけにはいきません。
最終面接に行くことをためらうヴァンスに、姉のリンジーがかける言葉がまた、いいのです。
リンジーも毒親に育てられたのに、それに縛られていてはだめだとヴァンスの背中を押します。
そして、ヴァンスは、最終面接に向かいます。
持つ者と持たざる者の格差社会と言われる昨今、持たざる者が成功と幸せをつかむことは想像を絶する苦しい道のりがあるのだという感想でした。
映画は、原作にある人々の悲痛や社会の歪みが描かれていないという評価もあるようです。
作者の本当に言いたいことを忠実に描けていないかもしれませんが、俳優の熱演やメッセージ性のあるストーリー展開は感動的でした。
ハリウッド的という意味では成功と言っていいのではないでしょうか。
まとめ
崩壊家庭に育ったり、親からの虐待があった場合、そのトラウマから逃げ出すことはとても難しいです。
育った環境が、その後の人生に強く関わってきてしまう場合もあります。
育った環境が幸せでなくても、「ヒルビリーエレジー」のように自分で自分の人生を切り開いていくことができる人もいるのだということに留めておきます。
NASAの「家族の定義」が正にそれなんですよね。
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