おすすめドキュメンタリー:「私はあなたのニグロではない」

映画、ドキュメンタリー

 こんにちは。今回は、Amazon Primeで視聴できる「私はあなたのニグロではない」(「I am not your negro」)をご紹介したいと思います。

 このドキュメンタリーは、アメリカの黒人作家で、公民権運動家であるジェームズ・ボールドウィンの未完原稿を元に作成されています。

 サミュエル・L・ジャクソンのナレーションで、いずれも暗殺されてしまったメドガー・エバース、マーティン・ルーサー・キング(キング牧師)、マルコムXとともに闘った公民権運動を通して、アメリカにおける黒人や差別の歴史についてのボールドウィンの個人的な考察が語られています。

 ジェームズ・ボールドウィンは、若い頃から、作家としての才能を開花させ、フランスのパリで執筆活動をしていましたが、パリの街で新聞のある記事を目にしたことがきっかけとなり、アメリカに戻ることにしました。

 その記事には、15歳の黒人少女が大勢の白人に囲まれ、ツバを吐かれても毅然として学校に通う写真が掲載されていました。

 この記事が掲載された1950年代のアメリカは、バスやトイレなど公共施設では、白人専用と黒人専用で区別されていました。

 しかも、公立の学校は白人と黒人の分離教育が行われており、1954年には、分離教育を違憲とする判決が出され、白人と黒人が同じ学校に通う融合化教育が進められるようになっていましたが、それに多くの白人が反対し暴動などの事件に発展していました。

 有名な事件だと、1957年のアーカンソー州のリトルロック高校で、この融合化教育に反対した多くの白人が学校に押し寄せ黒人学生の登校を阻止しようとして大きな騒動となりました(リトルロック高校事件)。

 そんな時世に、護衛もなしで15歳の少女が一人で学校に通う姿を見たボールドウィンは、居てもたってもいられなくなったのです。

 公民権運動の指導者たちと親交を深め、活動するボールドウィンでしたが、かれらとは違いアメリカを拠点としませんでした。

 なぜなら、ボールドウィンは、命の危険を感じるアメリカにはいたくないとパリに逃れたのです


 このようなボールドウィンの行動からもわかるように、ボールドウィンが強調するのは、アメリカの黒人は、命の危険にさらされているということです。

 民主主義のアメリカで、おいしいものを食べこぎれいで安全で幸せで、出世して車と家を持ち、子供を大学へ行かせることが人生というものだと白人は思い込んでいるけれども、そんな人生を想像できない人たちも大勢いて、その人たちにとっての民主主義は、命の危険のない生活を勝ち取ることを意味しているのです。

 奴隷制から過酷な歴史を生きてきた黒人にとって、白人の思い描く人生は、お花畑のようですが、一方の白人から言わせると、それを手に入れるために超えなければならない壁はいろいろあって、人間の本質は、孤独であり、生きるためにみんな何かと闘っているのであって、肌の色になどこだわってはいないというわけです。

 それに対して、ボールドウィンは、黒人と白人の区別を生活で強いられ、人種の壁があるのは明らかであり、肌の色にこだわらない命の危険のない理想郷など見たことがないと反論します。

 実際に、公民権運動の先頭に立ってきた、メドガー、キング、マルコムXは、いずれも暗殺という最後でした。

 ボールドウィンが言うように、歴史を過去のこととして忘れることも無視することもできません。

 誰もが差別のない幸せな人生を歩みたいと願っていても、依然として存在することは否定できず、昔のようではないけれども、差別の根底は変わっていないのかもしれません。

 ボールドウィンの声に耳を傾けてみると、「ニガーという役割を必要としていたのは、白人だった」という意味がわかると思います。

 ボールドウィンが、ドキュメンタリーの中で、ある映画を取り上げて、黒人の現実を知って怖くなったと語っています。

 それは、実際に起こった事件を題材にした映画なのですが、その事件というのが、1913年に、南部のジョージア州で14歳の白人の少女が勤務先の鉛筆工場で遺体で発見されるというレオ・フランク事件です。

 その事件で、最初に殺人容疑がかけられたのが、第一発見者の鉛筆工場で働く黒人の用務員でした。

 その当時、黒人が白人の少女の遺体を見つけたなどと言ったら、最悪の事態になることは明らかだったのですが、なぜか、人々の怒りは、北部出身の裕福な工場長であったレオ・フランクに向けられたのでした。

 当時のジョージアは貧しく、州民は、自分たちが貧しいのは、北部の金持ちのせいだと信じ込んでいたのです。

 この場合、北部の金持ちがニガーだったのではないでしょうか?

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